秋山さんはふっとやわらかく微笑む。
「それが、彼にとってかなわない夢だったからでしょうね」
「……」
「もちろん、浩二が父親になると言うなら、大塚さんは身を引くつもりだったみたいだけど。
浩二が堕ろせと言ったとき、あの人は迷わずに自分が父親になったのよ」
秋山さんのとなりで、叔父はきつく目をつむり、
何かこらえるような咳払いをした。
「兄貴は、桜子が生まれて、幸せそうだったよ」
たとえ自分の血が流れていなくても。
それでも、本当に愛する人の子供なら、我が子同然に愛せるんだろうか。
僕にはまだ、よくわからない。
けれど父は、確かに桜子を愛していた。
それが事実だった。
「あの」
桜子がおずおずと口を開く。
「じゃあ、その浩二…さんが、私の本当の父親ということですか?」
「ええ、そうね」
「今は……」
「残念ながら、今は連絡が取れないの。リナと別れてすぐに、海外に行ってしまってね。それっきり」
「……」