「リナとは中学校が同じで友達になったの。
同性の私から見てもハッとするくらい、本当にきれいな女の子だった。
そのくせ性格は一途で、飾り気がなくて……」
だからね、と秋山さんはぎこちなく笑った。
「同じ男を好きになっちゃったとき、相手がリナなら仕方ないなあって思ったの。
その人は浩二といって、私の幼なじみだった。
私は彼にずっと恋してたから、辛かったけどね。
……その後、浩二とリナは付き合い始めたの」
秋山さんはコーヒーをひとくち飲む。
あふれ出る記憶をいったん沈めるように、こくり、と音をたてて飲み込む。
「私は自分の恋心を誰にも告げず、忘れることにした。
それでよかったんです、ふたりが幸せにやってくれるなら。
実際、彼らは仲睦まじい恋人同士だったわ」
こくり、とひときわ大きく喉が鳴った。
「あの人に、出会うまではね」
「……」
「人間ってどうして、恋のためならあんな厄介な生き物になれるんでしょうね。
リナは、数年間付き合った浩二よりも、桜の木の下で出会った大塚さんにあっさり惹かれてしまったの」
そう、そしてそのとき父もまた、厄介な生き物になってしまったのだ。
けれど一気に燃え上がったその恋は、すぐに消えるはずだった。
母が僕を妊娠したことにより、父は家庭を持つことになる。
突発的な恋は、過去のものになるはずだった。