人間は、自分ひとりでは幸せにはなれないと思う。
誰かに“ありがとう”と伝えたい気持ち、
自分の“今”を当たり前と思わずに感謝する気持ちこそが、
実は、幸せってことじゃないだろうか。
それを本当に実感したのは、3日後のことだった。
「秋山です。はじめまして」
そう言って、秋山鈴子さんは叔父のとなりで会釈した。
そしてゆっくりと顔を上げて、慈愛に満ちた瞳で僕を見る。
「……お父さんに、よく似ていますね」
「そうですか?」
「ええ、彼の若いときにそっくり」
僕はどう反応していいのか分からずに、あいまいに微笑んだ。
――秋山鈴子さん。
桜子の父親を知る人。
真実を探っていた叔父が、困難の末にやっとたどり着いたのが、この秋山さんだったというわけだ。
当時を知る人に僕たちも会ってみたい。
そう思って、今日は桜子と共に、秋山さんの地元の喫茶店までやってきた。
「……それに」
彼女の視線が桜子を向いた。
「あなたは、リナの生き写しだわ」
秋山さんは、桜子の母親の親友だった。
けれど最後に会ったのは19年前だ、と彼女は悲しげに微笑んだ。
「許せなかったんです。リナの裏切りが」
ホットコーヒーをスプーンでゆっくり混ぜながら、
秋山さんはひとつずつ、思い出を取り出してゆく。