僕が切望していた
『きちんとした布団で寝られる生活』
は、実に意外な形で訪れた。
次の日、礼服に身を包んだ僕は、
慣れない早起きによる強烈な睡魔と戦っていた。
父の四十九日の法要が、朝から寺でとり行われ、
一応息子である僕はそこに参列したというわけだ。
不自然に静まり返った空間と、
そこに響き渡るお経のリズムが、さらに眠気を誘った。
お寺はずいぶんと古びていて、
床には漂流してきたイカダの破片のような、朽ちかけの板が張られていた。
右となりでちょこんと正座しているのは、
ほんの49日前に知り合った、血の繋がらない妹。
今日の桜子は長い髪をひとつに束ね上げ、
その下のか細い首筋をあらわにしていた。
陶器のようなうなじの白と、黒い喪服。
そのコントラストがあまりにも美しく、
僕はまどろんだ意識の中で、彼女の横顔に見とれていた。
「夕方から仕事があるので」
そう言って、法要のあとの会食は断った。
少しくらいなら時間はあったのだけど、
父方の親戚とテーブルを囲む気にはなれなかった。
成瀬の姓を名乗る僕にとって、
彼らは、血の繋がりはあってもどこかよそよそしい存在だから。