僕はベッドに手を伸ばし、桜子の手を握った。
……温かい。
長い長い安堵のため息が出て、
肺が空っぽになるくらい吐ききって――。
すると胸の中に残ったのは、
喪失におびえる弱い僕だった。
怖かった。
桜子が倒れたと、義広から連絡が入ったとき、
僕ははっきりとした恐怖に巣食われていた。
彼女を失うことへの恐怖心。
あの3ヶ月間で、嫌というくらいに身にしみたんだ。
もう……あんな思いは二度と嫌なんだ。
「よかった」
寝息をたてる桜子の耳元で、僕は抑えきれずに言う。
「無事で本当によかった。
頼むからもう、俺の前からいなくならないで。
お願いだから……」
壊れたと思った心が桜子を求めて、再びもがきだすのがわかった。
どんなに苦しくても、
どんなに胸が痛くても、
やっぱり僕は桜子を想うことをやめたくはない……。
義広や医者の目なんか、気にならなかった。
僕は何度も、ただ「よかった」と繰り返した。
しばらくすると、背後で誰か病室に入ってきた物音がした。
ベッドに突っ伏したままの僕に、医者が言った。
「桜子さんをここまで運んでくれた人です」