「ごめん」
「あやまらないで」
「ごめん……」
「ううん、隠してた私の方こそ、あやまらなくちゃ」
けどね、と鼻声で桜子が言った。
「秘密にしておけば、ずっと拓人といられると思ったの。
禁忌なんか怖くなかった。
ただ、拓人に捨てられることが怖かったんだ」
キスしようとして、やめた。
彼女に触れる自由を僕はいつの間に、落としてしまったのだろう。
どうして僕たちは屋根のない場所に出てしまったんだろう。
ふたりきりの世界はあんなにも小さくて、
あんなにも満たされていたはずなのに。
もう、抱きしめることしかできなかった。
彼女という存在の欠片をかき集めるように、僕は必死で桜子を抱いた。
ああ、と小さな声で桜子が言った。
「雪だ……」
誘われるように空を見る。
音もなく、ふわりふわりと舞い降りてくる粉雪。
涙よりもやさしく、僕の頬に落ちた。