「私ね、拓人と離れた3ヶ月の間に、ひとりでこの公園に来たんだ」

「俺もだよ」

「ほんとに?」


小さくうなずくと、桜子は慈しむような目で微笑んだ。


そして視線を外し、僕の胸にほっぺたをこすりつけるように、密着して抱きついた。


「でね、この子に桜の木を見せてあげたの。
秋だったから、花は咲いてなかったけど」

「うん」

「あの3ヶ月間……」

とつぶやいて、桜子はしばらく話をやめた。


言葉を探しているというよりは、何から言っていいのか分からない、という感じの沈黙だった。


「あの間にね」


ようやく整理がついたのか、彼女はまた静かに口を開いた。


「私、色んなところに行ったよ。
住み込み可能な短期のアルバイト探してさ。一ヶ月ごとに移動して」

「うん」

「休みの日は、たくさんの場所を見てまわった」

「そっか。楽しそうだね」


ううん、と桜子は首を振る。


「自慢じゃないけど、知らない場所にひとりで行くのとか、大の苦手なんだよ。
けど、頑張って行ったんだ」

「すごいじゃん」


そう言うと、彼女はこくりとうなずいた。


「……この子に、なるべくたくさんの景色を見せてあげたかったの」

「お腹の子に?」

「うん」