「桜子ひとりの体じゃないんだから、冷やしちゃダメだよ」
「うん」
「髪もこんなに冷たくなってる」
「うん」
ふたり分の体を包んだコートはいびつな形になり、前を通りかかったおじいさんが不思議そうに僕らを見た。
「さすがにふたり入るのはキツイな」
「3人でしょ?」
桜子がすかさず言った。
「あ、そっか」
「もしこの子が極端な寒がりで生まれてきたら、たぶん今日のトラウマだね」
あはは、という笑い声が白い息に変わる。
耳のふちがジンジンするくらいに冷たくて、本当に寒い。
その分、桜子と触れ合っている部分が温かかった。
「ねえ拓人」
「ん?」
視線を落とすと、桜子は僕のコートの中から上目遣いでこちらを見ていた。