「なーんか殺風景だよな。春に来たときと全然違うし」
「そう?悪くない景色だと私は思うけど」
「そうかなあ」
首をかしげる僕の横で、クシュン、と桜子がくしゃみをする。
「寒い?大丈夫?」
「うん、平気」
「何か温かいもの買ってくるよ」
立ち上がりかけた僕の手を桜子が握った。
しっかりと意思を持った、強い力で。
つかんだ手を離す気配がなかったので、僕は浮いたお尻をもう一度ベンチにおろした。
そして僕たちは肩を並べ、殺風景だけど悪くない景色を静かに眺めた。
しばらくすると、ブシュン!と不恰好な音を立てて、桜子は鼻水を飛ばした。
「ほら、やっぱり寒いんだろ」
僕は自分の着ているコートを広げて、その中に彼女をすっぽりと包み込む。