ひとしきり笑ったあと、桜子が言った。
「じゃあ、お詫びの印として、お願いごとを聞いてくれる?」
「いいよ。何なりと」
「明日、あの公園に連れて行ってほしいの」
「公園?」
ああ、あそこね、と僕は上ずった声で応えた。
「けど今の季節に桜は咲いてないよ?」
「いいの。行きたいだけだから」
「そう?」
うん、と桜子がうなずいた。
当たり前だけれど、やっぱり桜は咲いていなかった。
春や秋に見た色彩は鳴りをひそめ、公園中が冬の顔に変わっていた。
平日ということもあって人はほとんどいない。
あちこちに点在するベンチのほとんどが空席で、まるで出来の悪いオブジェみたいに無意味に佇んでいた。
僕たちはそのうちのひとつに腰をおろした。