「そっか」
うなだれた僕に彼女が言った。
「拓人が来てよ」
かすれて、消えそうな声だった。
「拓人の方から来てほしいよ」
ジュッ、と音をたてて灰皿の上でタバコがつぶれた。
僕は立ち上がり、桜子へと進んだ。
距離が縮まるにつれて、彼女の顔は泣きそうな表情に変ってゆく。
そしてその表情も、やがて見えなくなった。
僕はしっかりと彼女を抱きしめた。
「ほんとに……悪かった」
僕の腕の中で、桜子の頭が小さく左右に揺れた。
「いいよ。ちょっと機嫌が悪かっただけでしょ?」
「けどそれで桜子に当たるなんて、最悪だよな」
「いいってば」
「けど……」
「もう!拓人、しつこい!」
ビックリした。
思わず「けど」の続きを飲み込んだ。
そして、下からにらみつけてくる桜子と目が合って、僕らは同時に吹き出した。