絡みつく好奇の視線。
威圧するような本棚。
インクの匂い……。
自動ドアが開いて空が見えた瞬間、やっと呼吸ができた気がした。
心臓が、やかましい音を立てている。
ベンチに座り、タバコに火をつけた。
ゆっくり吸って、吸って、吐く。
「なんで……あんなこと言っちゃったんだろ」
ひとり言はすぐにため息にかき消された。
バタバタと足音がした。
顔を上げると、桜子が息を切らしながら走ってくるのが見えた。
とっさにタバコを消そうとした僕を
「消さなくていいっ」
桜子が制止する。
「……これ以上、近寄らないから、大丈夫」
そう言って桜子は僕から少し離れた場所で足を止めた。
息苦しい沈黙。
風に乗って流れる煙は、彼女のいる場所まで届かずに消える。