「うん……まだ」
「そっかあ。婚姻届って緊張しそうっすよねー」
「……そうだな」
桜子の笑い声が聞こえた。
陸くんからプリンを一口もらって、幸せそうな表情ではしゃいでいる。
「なんか、桜子ちゃんがお母さんになるなんて想像つかないっすね。
まだ子供みたいだ」
コバが目を細めて言った。
陸くんたちといっしょに甲高い笑い声をあげて遊ぶ桜子。
その姿はコバの言うとおり、母の顔というよりはまるで子供だ。
「桜子、あんまり騒ぎすぎちゃダメだからな」
そう声をかけると、彼女は悪戯っ子の笑顔で僕を見た。
あまりに屈託なく笑うから、心が痛んだ。
――“たったひとり”の存在。
今の僕にとって、それは紛れもなく桜子のことだった。