「――よし」

オーナーが言った。

「わかった。しばらく雇ってやろう」

「本当ですか?!」

「ただし」


僕の一瞬の歓喜を封じ込めるように、

威圧的な瞳でオーナーは僕を見据える。


「この名古屋店じゃない。東京だ」

「……東京?」

「成瀬、おまえ来週から池袋店の店長として働け」





世の中、おいしい話なんかそう転がってはいない。


東京転勤という突然の命令にとまどいつつも、

解雇を免れたこと、

そして店長という役職をもらえたことに飛びついた僕だが、


それを後悔するのに三日とかからなかった。




「……どうしてこの店はこんなにヒマなんだ」


売上表を前に、僕は思わずそうぼやく。


池袋店に移動して以来、

この言葉が僕の口癖になりつつあった。


ヒマだ。
とにかくヒマすぎる。