そうだ。
ここは病院。


ようやく頭が働きだした僕は、夜中の出来事を思い出す。


そしてあわててベッドの方を振り返った。


「おはよ、拓人」


やわらかい笑顔に、そう挨拶された。


黄昏のやわらかな光が、彼女の笑顔を染めている。


「……うん。おはよう、桜子」


けれど、もうおはようの時間じゃない。

僕たちは少し眠りすぎたみたいだ。


桜子は寝起きのボサボサ頭で、服もヨレヨレ。

なのにこんなにも僕の胸をときめかせるなんて、ずるいと思う。


おかげで義広の目も忘れて、思わず抱きしめてしまったじゃないか。


「何?痛いよ」


困った声で桜子が言った。


「拓人、苦しい」

「わかってる。苦しいくらいに抱きしめてるから」

「もう。どうしちゃったの?」


駄々っ子をあやす母親みたいな桜子の声。


「おい、家でやってくれねえ?」

と背後で義広が笑った。