そうだ。

だから、苦手だった。

子供の頃の暗い気持ちを、甦らせるスイッチになりそうで。


それを分かっていて、あえて革靴を選んだ彼女の気持ちに、胸が熱くなる。


……すべては、

“お父さん”になる僕のためだった。


「ははっ……」


僕は思わず笑みをもらす。


「ほんと、君には負けるよ」


桜子が、僕のとなりで微笑んでいる。






朝方、彼女はふたたび眠りに落ちてしまった。


うっすら差し込む光の下で、本日2回目の桜子の寝顔を見た。


さっきよりも幸せそうに見えるのは、白み始めた空のせいではないはずだ。


僕は、精一杯の想いがつまったプレゼントを、胸に抱いた。


失くさないよう、
離してしまわないよう、

しっかりと抱きしめた。



そして祈ったんだ。



どうかこの恋が、


背徳への道しるべではありませんように、と。