早朝に電話が鳴ったのは、夏の終わりかけのある日だった。
「拓人か?」
受話器から聞こえるしゃがれ声が、いつかの記憶と重なり、
僕は寝ぼけ眼を強くこすった。
「叔父さん。こんな時間にどうしたんですか」
「あいつは、寝てるか?」
そう問われるより先に、僕は桜子の寝顔を確認していた。
戸の隙間から見える僕の部屋には、ベッドに横たわり寝息をたてる彼女の姿があった。
「はい、眠っています。……大丈夫です」
“大丈夫”。
どうしてそんな言葉を使ってしまったのか。
「お前、今日は仕事は?」
「夕方からですから、昼間なら空いてますけど」
「じゃあ……今日の正午にそっちに行く」
声をひそめて叔父が言った。
「話があるんだ」