しばらく歩いたところで、桜子は

「けど」

と言って足を止めた。


「花火の華やかさも好きだけど、こうしてただ歩いてる時間も、私は好きだよ」

「そう?」


桜子がうなずく。


「アレもコレもしたい訳じゃなくて、一緒にいたいだけだから」

「俺はもっともっと、桜子にたくさんのことをしてあげたいよ」

「いいってば」


そう言って桜子は、僕の胸に顔をうずめた。


「ほんとに……特別なことなんて何もいらないの。
こうして拓人と手をつないでいられたら、それでいい」


夜の香りを吸い込むように、僕の胸元でゆっくりと呼吸し、桜子は瞳を閉じる。



「ねえ、拓人。……幸せすぎて泣きそうだよ」



涙声でつぶやく彼女を、僕はきつく抱きしめた。