というわけで、
めでたく日曜に休みがとれた桜子と、この夏初めてのデート。
「花火大会って何年ぶりだろ。すっごい嬉しい!」
僕のとなりで、桜子はさっきからずっとこの調子だ。
デートの舞台に選んだ花火会場は、僕らの住む町から電車で30分の距離にあった。
行きの車内がすでに混んでいたから、ある程度は覚悟していたけれど……
「何だ?!この人間の数!」
駅に降りた瞬間、思わずそう叫んでいた。
家族連れ、カップル、その他もろもろ……。
東京中の人間が集合しているんじゃないかという状態で、地面の色が見えている場所なんか、どこにもなかった。
「桜子、ちゃんと手つないでろよ」
無意識にそう言って、少し照れくさくなる僕。
「うん」
桜子の体がぴったりと密着し、腕にしがみつく。
僕たちは人の波に押されたり、時々戻されたりしながら、
どうにか会場となる河川敷まで辿りついた。
ここまで来てやっと人々が散らばり、僕たちのまわりにも自由な空間が少し生まれた。
もちろん、それでも桜子が僕の腕を離すことはなかったけれど。