「痛っ」
「……ちょっと、叔父さん!どうしたんですか、急に?!」
僕は叔父の体を押さえて必死でなだめた。
それでも彼は腕をふりはらい、意味のわからないことを叫ぶ。
「お前たち、男女の関係なのか?!」
「ダメだ!」
「今すぐ別れろ!」
尋常じゃない様子だった。
僕たちのキスを見てビックリしたとか、そういうレベルだとはとても思えなかった。
しだいに僕らのまわりに野次馬が集まり、騒ぎを聞きつけた舞さんが青い顔をして走ってきた。
「お父さん!何騒いでるのよ!」
舞さんの声で、叔父はハッとおとなしくなる。
「桜子ちゃんのハンカチ届けるって言って、追いかけたんじゃなかったの?!
それがなんで、こんな騒ぎになってるわけ?」
「……」
肩で息をしながら、叔父は桜子の肩から手を離した。
場はとたんに静まり返り、蝉の声だけが残った。
僕も桜子も何が起こったのか、全くわからなかった。
そしてもちろん、舞さんにも。
叔父だけが、
夜の海のように真っ暗な瞳の奥で、
これから起こる出来事を見すえていた。