できたての幸せを、両手いっぱいに分けてもらった気分だった。
満ち足りたこの空気が、僕の口を素直にさせた。
「いつか、俺らも子供つくろうな」
何の気なしにつぶやいた一言。
次の瞬間、言葉の意味にはたと気づいて、恥ずかしさに襲われた。
そろりと隣を見下ろすと、桜子は目をまん丸にして固まっていた。
街路樹のクスノキが、彼女の赤い頬に影を落としている。
「うん」
桜子が言った。
「……そうだね」
言葉と同時に彼女は目を伏せた。
僕はその肩に手を置いて、ゆっくり顔を近づける。
“約束の口づけ”は、
少し照れくさくて、
けれど甘くて……。
そのとき、ふと視線を感じた。