「えっ?」


思わず体に力が入った。

そのせいで、さっきのケンカで受けた傷がズキンと痛んだ。


けれどそんなこと気にならないくらい、心臓が痛みを訴えている。


桜子……名前を聞くだけで、こんなに胸が痛いなんて。


「な、なんでいきなり?」

「実は、俺が女の子を引き抜いた日の晩、桜子ちゃんから電話があったんですよ」


電話――?


「ほら、俺、彼女に名刺渡してたでしょ?
そこに自宅の番号が載ってるから」


コバは少し気まずそうに言いよどみ、

落ち着かない様子でテーブルに肘をついた。


口をつけていないビールは、すっかり炭酸が抜けきっているように見えた。


「桜子ちゃんが、電話で俺に言ったんですよ。
……“拓人が出張に出たらしいんだけど、どうも様子がおかしい。何か知らないか?”って――。

俺、その言葉で、自分が店長にどれだけ迷惑かけたのか痛感して……」