「俺、それでつい、うなずいちゃったんです。
けどね、この時点ではまさか、店の女の子を引き抜こうなんて思ってなかったですよ?」


コバはやっと顔を上げたかと思うと、目線は床をむいたままで肩を落とした。


「最初は、街中で適当に声かけたり、知り合いを誘ったりしてみたんです。
けど、なかなか見つからなくて。
……ちょうど店に新人が入ってきたとこだったから、この子たちを引き抜けばいいじゃんって、考えちゃって……」


それをミドリに提案したら、
彼女はにっこりと微笑んで、ただうなずいたという。


無言の、賛成の合図だった。


「そっか……それで、ミドリは俺に近づいたのか」

「店長……」

「なるべくスムーズに女の子たちに近づくために、まず俺に近づいて……」


そして、ある日姿を消した。


見込みあるコンパニオンと、

扱いづらいけど嫌いじゃなかった部下と、

それから、
ささやかな幸せの日々を引き連れて。


「ミドリは元気にしてる?」


訊いたあとで、おかしな質問だなと気づいた。

これじゃまるで、彼女の事を僕が心配しているみたいじゃないか。


「ええ。元気にやってます」

「そっか」


元気……つまり、例の男と続いているということだろう。


今さら責める気はないし、必死だな、なんて笑うつもりもない。


「ところで店長」

コバが言った。

「桜子ちゃん、どうしてますか?」