「はぁっ……はぁ……」

「久しぶりだな――」


けっして目を合わせようとしないその人の、
青ざめた顔を見ながら僕は言った。


「――コバ」









居酒屋で案内されたテーブルは、

皮肉にも数ヶ月前にコバやミドリたちと座った席だった。


あの日と同じ4人掛けの隅の席で、僕らは向かい合った。


店内はやかましいのに、僕らのまわりの空気だけはやけに静かだった。


10分、20分……
どのくらい黙っていただろうか。

コバが突然頭を下げるまで、沈黙は続いた。


「すみませんでした!」


額をテーブルにこすりつけるようにして、コバはそう言った。


注文したビールを店員が運んできても、彼は顔をあげようとはしなかった。


「俺……、借金があったんです。
車のローンとか服代とか、いつの間にかすげえ額になってて」


言葉を発さずに僕はうなずく。

コバの目にはテーブルしか映っていないはずだから、
僕の仕草なんか見えなかっただろうけど。


「だから、ミドリに
“もっといい給料で働かないか”
って誘われたとき、つい魔がさしちゃって……」