次の日から桜子は店を休んだ。
体調不良のため、らしい。
熱が出たので休ませてくれと5日前に電話が入って以来、
店からは彼女の姿が消えていた。
5月最後の日曜が、雨雲をつれてやってきた。
じめじめした空気。
樋をつたう雫の音が、耳に残る。
――『雨の日曜は、どこにも出かけずに
部屋の中でゆっくりするのがいいよね』
そんなことを彼女が言ったのは、いつだったか。
けれど今の僕は、雨ふりの週末を持て余している。
あてもなく街をふらついて、時間をつぶした。
歩けば歩くほど、スニーカーの内側にじんわりと雨水が染みこみ、
どうにもやるせなかった。
桜子……。
僕が間違っていたのかな?
君の行動に口を出すべきじゃなかったのかな……。
意識が、すっかり別のところに飛んでいた。
若い男とすれ違いざまに肩をぶつけたことすら、気づかなかった。
「痛ぇな、こら!」
穏やかじゃないその声に、僕はふりかえる。
僕と同年代くらいの、髪を赤茶色く染めた男が3人、こちらを睨みつけていた。
「……痛いのは」
「あ?」
「痛いのはこっちだ!」
怒声が響いた。
僕の声だった。
いや、ちっとも痛くないんだけど。
冷静な頭とは裏腹に、勝手に口が動いていた。
怒りにこめかみを震わせた男がひとり近づいてきて、
拳が僕に向かうのが見えた。
それが視界ぜんぶを覆うくらい大きくなったとき、
ふと気づいた。
――俺、何してんだ?
けど、もう遅かった。