「……え……」
頭が真っ白になる――、
というのは、このことか?
けれど胸の一部がたえきれないほどに痛み、
ストップしそうな僕の思考を食い止める。
客は膝をがくがくと震わせながら、去っていった。
残されたのは、僕とマユミ。
そして……
「桜子」
細い肩が跳ねた。
僕を見上げる彼女の顔は、涙でぐちゃぐちゃだった。
「嘘だろ……?本番なんて、ただの噂だろ?」
桜子の頭がわずかに縦に振れる。
「……じゃあ、なんで客にまで広がってるんだよ?!
なあ、噂は本当なのか?」
「違……っ」
「本当なのかよ?!」
……もう
何が何だかさっぱり、わけがわからない。
僕は目の前で泣いている女の子を信じてあげたいし、
けれど何が本当なのかもうわからない。
マユミは言葉を探して立ち尽くしている。
手のひらで顔を覆い、僕はため息を吐いた。
すべての呼吸が嘆息に変わりそうだった。
「俺……わかんねえ。なんで桜子がいきなり風俗で働きはじめたのか。
なんでいきなり、こんなことになってしまったのか」
「拓人……」
「もう、桜子がわからないんだよ……」