「何……してんだよ?!
桜子から離れろよ!」


立場とか仕事とか関係なく、
僕は客の腕をつかんで無理やり引き剥がした。

床に激しくぶつかるように、客の体が飛ぶ。


「お前、桜子に何しようとした?!ふざけんなよ!ここはそんな店じゃねーんだよ!桜子はそんなことする女じゃねーんだよ!」


怒りで視界が黒く染まりそうだった。

客が何かわめいているけれど、耳がおかしくなったみたいに聞き取れない。

気づけば拳に力をこめて、腕を振り上げていた。


「落ち着いて、店長!」


駆けつけたマユミに肩をつかまれ、我に返る。


はだけた胸元を隠し震える桜子を、視界のはしに捉えた。


僕の下敷きになった客は、顔面蒼白で言葉を失っていた。


「……はぁっ」


大きく息を吐いて、力の入った腕をおろす。


客は腰をぬかしたまま床を這いつくばり、
自分の背広とカバンをあわただしくつかんだ。


「は…話が違うじゃないか」


客が叫んだ。


「本番させてくれるって噂を聞いて来たのに、話が違うだろ!」