クビは見逃してやるとオーナーに言われ、素直に喜ぶことができなかった。


僕は何もできずにいた。
結局、新人のあてがないままだ。


見かねたマユミが友人を4人ほど連れてきてくれたこと、

そして皮肉にも桜子の入店が、
どうにか僕のクビをつなぐ結果になった。



家を出てからは、店のソファで寝泊りした。

東京に出てきたときの状況に逆戻りだ。


けれどあの頃とは何もかもが違っている。


僕に憎まれ口をたたくコバは、もういない。


代わりに、見なれた幼い顔が、待機室の片隅にある。


おかえり、と微笑みかけてくれていたあの笑顔が、

今は客に向けられている。