「……いやいや、そんなに笑うところか?」


首をかしげる僕の前で、桜子はなおも笑い続ける。


腹をかかえ、
目尻ににじむ涙をぬぐい、

彼女は笑い続けた。


そして笑いながら、

「約束ね」と言った。


「約束だよ。来年もあの桜を見につれていってね?」

「……おう、まかせとけ」


力強い口調で僕は答える。

桜子は僕の目をまっすぐに見つめて、ありがとうと言った。


……その瞳があまりにきれいすぎたから、

僕は直視できなかったんだろうか。


昼間、桜の木の下では、

彼女の笑顔に隠された寂しさに気づくことができたのに――


指切りすら交わさなかった約束は、それでも僕の心に強く強く刻まれた。


来年の春もきっと、
あの桜を彼女といっしょに見よう、と。


そして再来年も、
その先もだ。


たとえ桜子に素敵な彼氏ができたって。


「絶対よ?」

と桜子が言った。


「もちろん」

僕も言った。

「約束だよ――……」





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