僕は彼女の体を強引に引き離した。


彼女はとっさに顔をそむけ、深くうつむいた。


「……どうしたんだよ」

「……」


少し間をおいて、桜子がやっと顔を上げる。


その表情を見て僕は、思わず目をぱちくりさせた。


いつもと何ひとつ変わらない、

あっけらかんとした笑顔がそこにあったから。


「彼氏なんて無理に決ってるでしょ?
あんなさびれた中華料理屋でさ」


「……桜子」


「店にいる男なんて、脂ぎった常連客のおじさんか、実は和食党の店長くらいなんだから」


ね?と桜子は首をかしげて笑う。


「だからしばらくは、彼氏なんかできないよ」

「……そっか」

「そうよ」

「そうだよな。……悪い、俺もバカだな」

「そうよ、拓人はバカ」

「いや、言いすぎだし」


僕が突っ込むと、桜子はアハハと大きな声で笑った。