「そのときにはさ、今以上にもっと俺らは、家族になってるよ。
桜子には今日みたいな寂しそうな顔させない。
笑顔で胸を張って、お母さんの思い出の場所をたずねよう」


それから、しばらくの沈黙があった。


桜子があまりにも何も答えないので、しだいに僕は不安になってきて、

言い訳するみたいな口調でボソッとつぶやいた。


「……もちろん、君に素敵な彼氏ができていれば、俺なんかよりその彼と行ったほうがいいだろうけど……」


「ぷっ」


桜子の笑い声がかすかに響く。


「それって、誰かさんと違ってやさしくて、意地悪なこと言わない彼氏?」


クスクス笑いながら桜子が言った。


やっと笑ってくれたことで僕は少し舞い上がる。


肩を小刻みに震わせて笑う彼女に、僕はまくしたてるように言った。


「そう、それだよ。君の理想の彼氏!
スポーツジムのインストラクターとかしてるようなさ」


「無理よ」


「え?」


次の瞬間、桜子の体が僕の胸に飛び込んだ。

甘いフローラルの香りが鼻をかすめる。


「さく……」

「そんなの無理に決ってるじゃない」