「ロランツが結婚するらしいわ」

 母の言葉には、どこかおもしろがっているような響きがあった。
 少女はけげんげに細い首を傾げた。

「お兄様が? もしかして、政略結婚とか?」

 少女の父は、草原の北に位置する王国、ウィルランドの王である。そして、その兄は、世継ぎの王太子。となれば、政略による結婚はじゅうぶんありえる話だ。けれど、その割には、目の前の母はなんだか笑いをかみ殺したような顔をしている。

「読んでご覧なさい、シャリア」

 少女は鍋をたき火の上に下ろすと、父からの手紙を受け取った。