「弘樹に会いたい……声が聞きたいの。こんなに好きなのに、どうして会えないの? 」


綾華は両手で顔を覆い、泣き崩れた。そんな綾華にゆっくりと歩み寄り、キズナは綾華の肩を優しく抱いた。


「あなたは一人じゃない。このお腹の中は誰がいる? この子は生きようとしてるわ……あなたと一緒に」


綾華は、はっとして自分のお腹を見つめた。そう、この体はもう自分一人のものではないのだ。


「生きることから逃げないで。私が言えるのは、それだけです」


そう言ってキズナは病室を後にした。体を震わせ、声を上げて泣いている綾華を残して。




「キズナ!」


弘樹が中庭の大木の下でキズナを見つけた時、キズナはちょうど死神の姿に戻るところだった。


キズナの体からツキが出てくると同時に黒いニットワンピースが消え、いつもの黒いローブを纏うキズナが現れた。


再び現れた大鎌の刃が夕日の光を受け、赤く輝いている。


「君は人間になれるのか?」


弘樹が今の光景に目を見開きながら尋ねた。


「私は人間じゃない、死神よ。ただ人間に姿を見せることが出来るだけ。ツキの力を借りてね」


「だいぶ体力使うけどねー」


ツキがひょいっとキズナの肩の上に乗りながら呟いた。さっきより少し疲れた顔をしている。


弘樹はキズナとツキを嬉しそうに見つめ、頭を下げた。


「ありがとう! 綾華を助けてくれて」


「別にあなたのためじゃない。死後に彼女が後悔するのは目に見えてるから止めただけ。こっちだって、目の前で死なれたら気分悪いしね」


キズナは素っ気なくそう言い、そっぽを向いてしまった。


「……素直じゃないんだから」


ツキが悪戯っぽく笑いながらそう呟いた瞬間、キズナが鋭い目で睨みつけた。


殺気を感じたツキは、慌てて弘樹の陰に隠れる。一方、弘樹はキズナが言ったある言葉に引っかかっていた。


「後悔するって、どういうことだ?」


「自殺しても何も良いことないってこと。簡単に天に向かえるほど甘くないの」


そう言いながら、キズナが左手首をさすったのを弘樹は確かに見た。その直後……弘樹の頭の中に、ある仮説が出来上がる。