「キズナ!?」


確かに、そこにはキズナが立っていた。しかし、いつもの姿と全く違う。


黒いニットワンピースにブーツを履き、髪を後ろに高い位置で束ねている。いつも持ち歩いている大鎌はどこにもなく、隣にツキもいない。


そして、何より驚いたのは……綾華がキズナをしっかり見つめているのだ。


――綾華にキズナが視えている?


「あなたは?」


綾華のその問いかけに、キズナは笑顔で答えた。


「はじめまして。私は弘樹さんの友人です。あなたが綾華さん……ですね?」


「えぇ……」


綾華は、不思議そうに目を細めながら頷いた。


「弘樹さんのこと、大変残念です」


その言葉で弘樹の死を思い起こされた綾華の頬に、再び一筋の涙を流れる。


全く状況が理解できない弘樹は、ただ呆然と立ちつくし、事の成り行きを眺めているしかなかった。


綾華が涙を拭って、再びキズナに視線を戻した。それと同時に、キズナが綾華に語りかける。


「相当落ち込んでおられると思って訪ねたんです。もしもの事があったら、あなたを頼むと弘樹さんに言われていたものですから」


「弘樹が、あなたに?」


綾華はきょとんとして問いかける。しかし、キズナは綾華の傷ついた首に目を向けて静かに話し始めた。


「弘樹さんは亡くなりました。想像も出来ないほどの悲しみでしょう。……でも、自ら命を絶つことだけは考えないで。自分も周りも苦しむだけ」


キズナはそこで一息置いた。気のせいだろうか……弘樹には、キズナの目が少し潤んでいるように見えた。


「逃げ場のない苦しみの中に行きたくなければ……おやめなさい。弘樹さんが、そんなことを望んでいると思いますか?」


キズナは優しく説得したが、綾華はただ首を横に振り、震える声を発した。


「……辛いの」


綾華はそう呟き、再び目に涙を溜めた。


「ずっと……ずっと一緒にいられると思ってた。来年も再来年もその先もずっと! ……なのに、こんなに早くいなくなっちゃうなんて」


そう話す綾華を見つめていた弘樹は、とうとう涙を耐えきることが出来ずに涙を流した。