地面が抜け落ちた感覚だった。絆を支えていた足元が、一斉に音を立てて崩れ落ちる。


――紘乃は……紘乃だけは、私の味方だと思ってた。だって、ずっといじめられてきたあの子を庇っていたのは、私なのよ?


でも、もう隣に紘乃はいない。もう二度と微笑みかけてくれることも、愚痴を聞いてくれることもない。


あの子は私に背を向けた。……私は、最後の支えを失ったんだ。



見開いたままの絆の目から一粒の涙がこぼれ落ちた。それを引き金に、この二ヶ月の苦しみが全て涙となって溢れてくる。


無くなってはゴミ箱から発見される持ち物


否定され続ける存在


香奈から浴びせられる数々の暴言


そして、無視を続けるクラスメイト達。



今まで耐えてこれたのは、全て……紘乃がいたから。



絆は声をあげて泣いた。涙は一向に止まる気配はなく、滝のように流れ続ける。



――なんで、こんな事になってしまったんだろう。


私があの時、香奈のいじめを止めたから?もし、あのまま見知らぬフリをしていたら、こんな事にはならなかったの?


どうしてよ。私は、何一つ間違った事なんてしてない。こんな仕打ち、受ける理由なんてないのに。



あまりの理不尽さに苛立ちが治まらない……そう感じた時、隣で突然に物音が聞こえて絆は飛び上がった。


プールサイドに置きっぱなしだった鞄から聞こえるその音は、どうやら携帯のバイブ音のようだ。


絆が静かに目を拭って、鞄を取ろうと片膝を立てた時……足に何か堅い物が当たるのを感じた。


コートのポケットに手を入れると……


中に入っていたのは折りたたみ式の小型ナイフ。絆が香奈達のいじめを目撃したとき、香奈が女子生徒に突きつけていたあのナイフだ。



すべて……あの時から始まった。



絆はナイフの刃を取り出し、うつろな目で眺めた。妖しく光るナイフの刃が、絆の瞳に映っている。


絆は目を閉じ、刃を濡れた左手首へと静かに押し当てた。


聞こえる音は、今も鳴り続ける携帯のバイブの音だけ。



――これで……私は楽になれるだろうか。


苦しかった毎日も、親友の裏切りも、全部忘れて。