そこには、絆の友達である香奈がいた。香奈以外にも数人いるが、見覚えのない顔ばかりだ。違うクラスの子達だろう。
香奈とその友人達は何かを囲み、嘲笑っている。
「何してんだろ」
絆は目を細め、囲まれている物の正体を暴こうとした。
そこには、見たことのない女子生徒が立っていた。よく見ると……泣いているようだ。
何となく嫌な予感がする。香奈は面白い子だし、一緒にいると楽しい。しかし、どこか人を見下す残酷なところがあったからだ。
まさか……
「いじめ?」
絆がそう呟いたとき、香奈の声が聞こえた。
「あたし、今日いいもん持ってんだ。見せてあげよっか?」
香奈がポケットから取り出した物を見て、絆は自身の目を疑った。その手には、折りたたみ式の小型ナイフが握られていたのだ。
「香奈!」
絆は我慢しきれず、扉を開けて中に飛び込んだ。部屋にいた全員が驚きの顔で一斉に振り返る。
「……びっくりしたぁ。絆じゃん! まだ残ってたの?」
香奈は顔を綻ばせ、気軽に話しかけた。香奈の知り合いと知り、周りの友人達も安堵の表情を見せている。
「何してんの?」
絆が顔をしかめながら尋ねた。その問いに香奈は笑顔で答える。
「んー? 一種の教育かな!」
香奈の言葉に、部屋にいた全員が笑った。俯いている女の子と絆以外は。
「そんな物騒な物、よく先生に見つかんなかったね」
絆が冷たく言ったが、香奈は調子を変えることなく話し続ける。
「教師陣、バカなんだもん。全く気付かないよ。……絆も、この子の教育に参加する?まだまだ足りてないみたいでさ」
香奈がそう言い終わった時には、険しい顔つきの絆が、香奈の手からナイフを取り上げていた。
「こんなガキっぽいこと、もうやめなよ。高校生にもなって……恥ずかしくないの?」
絆はそう言うと、泣いている女子生徒に教室を出るように促す。女子生徒は小さな声で礼を言い、足早に部屋を後にした。
その様子を見た香奈の顔が、一瞬で凍りついた。
そして……
香奈の目に映る絆が、『友人』から『裏切り者』に素早く変わったのだ。