――――――――――
―――――――


体を震わせるほどの冷気が立ちこめる住宅街。


顔を出してから、まだ三時間ほどしか経っていない朝日が冷気を和らげようと、今日も精一杯輝いている。


出勤する社会人や学生達で賑わうその住宅街に、周りの景色にどうも溶け込めきれていない一本の桜の木があった。


周りをコンクリートの歩道で固められ、唯一の生き場である四角い囲いの中に、窮屈そうに収まっている。


春に備え、今は一枚の葉もつけていないその木の下に、少し気の弱そうな一人の少女が立っていた。


長い前髪を斜めに分け、少し肩に掛かるほどの黒髪の上からマフラーを巻いて、不安げに立っている。


セーラー服の上に羽織っているコートの前で、かじかんだ手をもんでいた。どうやら誰かを待っているようだ。


しばらくすると、桜の木を目がけて全力疾走してくる人影が見えた。


その人物は少女と同じくセーラー服にコートを羽織り、長い黒髪をなびかせて走っている。ようやく桜の木の下に辿り着くと、膝に手をついて息を整えた。


そんな彼女に、桜の下でずっと待っていた少女が呆れながら声をかけた。


「絆、遅いよ! 遅刻しちゃう!!」


「ごめんごめんっ! 紘乃<ヒロノ>なら待っててくれると思ってた!!」


絆は苦しそうに息を切らしながら言ったが、顔は悪戯っぽく笑っていた。


「もう、いつもいつも……。早く学校行こう! 先生来ちゃうよ!」


紘乃が時計に目をやり、せかしながら言うと、二人は学校の方へ走っていった。




早瀬絆<ハヤセ キズナ>と椎葉紘乃<シイバ ヒロノ>は、家が近所ということもあって五歳からの仲良しだった。


そんな二人の待ち合わせ場所は、いつもこの桜の木だった。この木が二人の家のちょうど中間地点にあったためだ。


二人はいつもここにいた。満開の花が空をピンク色に染める季節も、葉が枯れ落ちて地に茶色い絨毯を敷く季節も。


……そんな二人も、今年でもう十二年の付き合いになる。