優雅が達也の息の根を止めようとした瞬間、キズナが藁にもすがる思いで叫んだ。
「優雅、ちゃんと思い出して!あなたに歌うという夢を与えてくれたのは誰!? 他でもない、彼じゃないの!?」
達也を苦しめていた念が、突然緩まった。その瞬間、達也はむせながらベッドの上に崩れ落ちた。
……確かにそうだった。
十四の頃、目つきの悪さや髪の色から、周りのクラスメイトに恐れられていた優雅に、留年して同じクラスだった達也だけが普通に話しかけてくれた。
バンドに誘ってくれたのも達也だ。達也がいたから……今の優雅があるのだ。
「だけど、こいつが俺を殺したことに変わりないだろ!?」
優雅はキズナに一喝し、ベッドの上で丸まっている達也に向かって再び手を伸ばす。
しかし、その手は小刻みに震えていた。迷っているように。
優雅は怨みの念を奮い立たせようと、精一杯の嫌悪の目で達也を睨んだ。が、頭に浮かんでくるのは……達也と笑いあって過ごした、あの懐かしい日々。
「……なんで……こいつが憎いのに……なんで……こんな……思い出ばっかり……」
頭を押さえる優雅の目には涙が溢れている。キズナはそんな優雅にゆっくりと近づき、静かに言った。
「彼はあなたの命を奪った。だけど……この数年間、一緒に夢を追いかけてきたのも事実。よく思い出してみて。あなたの心には、本当に彼への怨みしか残ってない?」
「あああぁぁぁーーー!」
優雅は膝をつき頭を抱えて、叫びながら泣いた。
自分を殺した達也が許せない。殺しても足りないぐらいに憎い。引き裂いてボロボロにしてやりたい。
でも心の中に感じる感情は、それとは正反対のものだった。
悲しかったのだ。信じていた仲間に裏切られたことが。
共に笑い、共に泣いて過ごしてきた友が、最後の最後に自分を信じてくれなかった。
自分に夢を与えてくれた人が、まさかその夢を命と共に奪ってゆくなんて。
「優雅、ここを出ましょう。あなたはまた、ここからやり直せばいい」
キズナが静かに優雅に語りかけた。
優雅はその言葉に頷き、大量に零れ落ちる涙を拭いながら、ゆっくり立ち上がった。