達也だ。写真の中の優雅に向かって冷たい目をしている。
ベッドに座る達也の目の前で、さらに冷たい目で見下している優雅にも気付かずに。
「お前が悪いんだよ。岩見さんから引き抜きの話を聞いた時の俺の気持ちがわかるか?」
達也は相変わらず、写真に向かって独り言を続けている。
「お前をバンドに誘ってやったのは俺なのに……お前は俺を捨てようとしたんだ」
優雅は怒りが沸き上がってくるのを感じた。堅く握った拳がわなわな震えている。
――そんなことで俺を殺したのか?そんな小さな嫉妬で、俺の命を……未来を奪ったのか?
優雅が鋭い目で達也を睨んだ瞬間、達也の後ろで窓ガラスが砕けた。
「な……なんだ!?」
達也が、背後から降ってくるガラスの破片から頭をかばいながら呟いたのと同時に、キズナが叫んだ。
「やめなさい! 言ったでしょ!? 生きている人間を殺した時点で、あなたは悪霊になる! そしたら、私はあなたの魂を斬らなければいけない!!」
しかし、優雅はキズナを睨みながら大声で怒鳴った。
「こいつは俺を殺したんだ! 許せるわけないだろ!」
そんな優雅に負けないくらいの大声でキズナが叫び返す。
「生前に悪行をした人間は、死ぬと強制的に魂が地獄へ運ばれる! そこで永遠に苦しむわ。彼はちゃんと罰を受けるのよ!」
「だけど、こいつは今生きてる! 例え死んで地獄に行くとしても……俺より長く生きて、俺が掴めなかった幸せを掴むなんて許さない!」
優雅が天井に向かって手を伸ばした瞬間、部屋を照らしていた電球が物凄い音を立てながら砕け散る。室内は漆黒の闇に包まれた。
達也は驚きと恐怖に顔を歪めながら身を縮めている。
「……なんなんだよ、これ。……まさか……優雅?」
見えない何かを探るように、達也の目だけがせわしく動いている。
「相変わらず、勘だけはいいな」
闇の中から優雅の声が響き、達也はその声に飛び上がった。
「な……んで……確かに死んだはず……」
少しでも声から離れようと壁に張り付いている達也に、優雅が静かに訂正した。
「『殺したはず』の間違いだろ?」