「で、あの茶髪の女が進藤碧<シンドウ ミドリ>。一番年下でキーボードを担当してた。わがままだけど、俺達みんな妹みたいに可愛がってた」


男に支えられながら泣き崩れている十代半ばほどの女性を指した。パーマのかかった長い髪が、嗚咽と共に揺れている。


「俺は達也に誘われてから、ずっとこの三人と活動してきたんだ」


優雅は、懐かしそうに三人を順番に見つめた。


「そして、俺たちをスカウトしたのがマネージャーの岩見慎一<イワミ シンイチ>だ」


碧を支えている、眼鏡を掛けた優しげな男性を指しながら優雅が話した。年は三十代後半ぐらいであろう。眼鏡の奥には涙が溜まっていた。


「岩見さんは、俺がデビューから一年後に両親を亡くして以来、ずっと俺の親代わりとして面倒見てくれてた」


最後の一人はどうやら、今日の収録に携わっていた監督らしい。岩見に向かって、慌てながら話をしていた。


「こんな状態では撮影は無理だ。とりあえず上の指示を仰ぎ、追って連絡します」


そう言うと監督はあたふたと出て行った。


監督がいなくなった後、部屋の中に重い沈黙が流れた。誰一人として、口を開く者はいない。


その沈黙を消し去ったのは岩見だった。


「……とりあえず、みんな事務所に戻ろう。恐らく警察も来るだろうし。僕は車を出してくるから君たちも準備しなさい。二十分後に玄関で会おう」


最後に碧の肩を優しく叩き、岩見も部屋を後にした。


廉が静かに碧の方へ寄り、着替えを渡して、更衣室へ行くように促した。碧は涙を流しながら着替えを受け取り、無言で部屋を出て行った。


「俺たちも着替えに行こう」


廉が達也にも着替えを渡して言った。達也は流れる涙を押し込めようと、歯を食いしばりながら、廉と共に部屋を出て行った。


「彼らが、あなたに一番深く関わった人間なのね?」


誰もいなくなった室内でキズナの声が響いた。


「そうだな」


優雅は自分の横を通り過ぎていった懐かしい仲間達を、悲しそうな目で見送りながら答える。


その時、ツキが叫んだ。


「あの中に一人だけ……みんなと違う感情もってた人、いた!!」