「ここだ」
そう言って立ち止まった優雅の前には、大きいビルがそびえ立っていた。
ビルの屋上には、たくさんのアンテナが個々に向きを変えながら並んでいる。
「テレビ局?」
キズナが不思議そうに呟いた。
「そ。俺は、RISE<ライズ>っていうバンドグループの一人だった。だから、俺のこと話すならここがいい。あいつらもここに来ているはずだし」
中に入ると、とてつもなく広い大理石の大広間が待ち受けていた。中央にはせわしく動く長いエスカレーター、休憩所らしきカフェも見られる。
大きい窓際に大量に並べられているふかふかのソファーは、今はたくさんの人で完全に埋まっていた。行き交う人々の数といったら半端ない。
そんな大広間を歩きながら、優雅が話し始めた。
「俺は十四歳の時に友人から誘われて、ずっとバンド活動をしてた。今のマネージャーの岩見さんに声をかけられたことがきっかけで、俺達は念願のメジャーデビューを果たしたんだ」
そこまで言い終わったとき、優雅の足が止まった。
目の前には白い扉。その扉に貼られた紙には『RISE様』と書かれている。どうやら楽屋のようだ。中から話し声が聞こえる。
優雅はその扉を通り抜けて中に入り、キズナもその後に続いた。
部屋の壁には大きな鏡が掛けられており、その前には鏡と同じ程の横幅がある机が設置されていた。その机の端には、メイク道具がセットされている。
部屋の真ん中には小さな机があり、6つのソファーがそれを囲んでいた。
室内には五人の人間がおり、静かに話をしていた。その中のほとんどが泣いているようだ。
「あの中の三人がRISEのメンバーだ。……あの金髪で少し髪が長いのが、リーダーでドラムの矢口廉<ヤグチ レン>。一番年上で頼りになる。ちょっと短気なとこがあるけど」
優雅が、鏡の前の机にもたれながら下を向いている二十五歳ぐらいの青年を指差して言った。
そして、その指をソファーに座りながら大量の涙を流している青年へ移動させる。
「あの短髪の黒髪が湯川達也<ユカワ タツヤ>。俺の一個上……まぁ、留年してたけど。担当はギターだ。よく衝突はしたけど良い奴なんだ」