その時、脇にある監督室から監督が出てきて、全員をプールから上がらせた。大事な話があるというのだ。
キズナはツキを呼び戻し、亜耶の手を取ってシャワールームに引っ張り込む。
「なに?」
亜耶が驚いたように尋ねた。
「多分、あなたの死を知らせるつもりよ。あの中に、あなたが視える人がいるんでしょ? あなたの姿を見たら、混乱が起きる」
亜耶は、キズナがさっきまで隠れていた意味をようやく理解することができた。キズナは、真奈に姿を見られるのを恐れて隠れていたのだ。
キズナと亜耶がシャワールームからプールを覗くと……
部員達が一体何事かと囁いている。そして、それを掻き消して監督の声が練習場に響いた。
「さっき連絡が入った。中島亜耶が……亡くなったそうだ。今日の昼頃、貧血を起こして線路に落ち、電車に轢かれたらしい」
監督は重々しく話を続けている。突然の知らせに驚き泣いている部員達の中で、一人だけ震えている人物がいた。真奈だ。
真奈は昼過ぎに亜耶と言い合いをしたし、先程もシャワールームで憎まれ口を叩いていた。震えるのも当然だろう。
「そんな……ばかな。じゃあ、私が話していたのは……?」
真奈の小さな呟きは、誰の耳に入る事もなかった。
皆で黙祷をした後、部員達は試合に備えて練習に戻っていく。しかし、真奈だけは呆然と立ちつくしていた。
そんな真奈に気付いた監督が、悲しそうに声をかける。
「お前は、今度の試合で中島と一緒に泳ぐはずだったんだな。中島の分も存分に泳いでやれ。それが中島に出来る唯一の弔いだ」
そう言い、監督は再び監督室に戻っていった。
亜耶は悲しそうな目でプールを覗いていたが、近くにいたキズナの手が震えていることに気づき、キズナを見上げた。
キズナはこわばった表情でプールを見つめていた。その目には、なぜか恐怖に近いものが読み取れる。
「キズナ?」
亜耶が不審に思って声をかけたが、キズナはただ硬い表情で固まっている。
「プール……なにか……あった。誰か……私の前から……いなくなって……」
突然、キズナが何かに怯えるように呟き、右手で額をおさえた。