「変な事言わないでよ! 私が死んだ!? 私はここにいるじゃない!」


「今のあなたは魂だけの存在。あなたに、肉体は……もう無い」


亜耶が言い返そうと口を開いた瞬間、キズナが亜耶の言葉を遮った。


「死を受け入れられないのも無理はないわね。死の瞬間、あなたには既に意識がなかったんだから」


疑いの目を向ける亜耶に構うことなく、キズナが淡々と話を続けた。


「あなたは、さっきまでいた駅で貧血を起こして倒れたの。電車が入ってこようとしている線路の上にね。私は、それを上から見ていた」


「確かに、私は駅で電車を待ってた。でも……」


「よく思い出してみて。あなたは、一体どうやってここまで来たの?」


再びキズナが亜耶の反論を遮って尋ねた。


……不思議に思っていた。さっきまで確かに駅で電車を待っていたはずだ。


そこから電車が入ってきて、反射した光に目を閉じて……気付いたら大学の前にいた。鞄も携帯も持たずに。


亜耶はそこまで思い返した後、はっとして顔を上げた。思いついたその出来事に顔が輝いている。


「そうよ! 私は大学に着いてから真奈と話した! 死んでたら、誰とも話せないはずでしょ?」


亜耶は勝ち誇ったように言ったが、キズナは全く表情を変えなかった。


「……稀に死者が見える人間もいる。その人は、死んだあなたと話していたのよ。あなたは死んだの」


「そんなはずない!!」


亜耶の叫び声が講義室中に響いた。それに気付いた亜耶は慌てて口を押さえる。


講義中だということをすっかり忘れていたのだ。こんなに大声を出したら、間違いなく教授に怒られる。


……だが、そんな心配は必要なかった。


あれだけ叫んだにも関わらず、誰一人として自分を見ていない。教授ですら、知らないふりで講義を進めている。


亜耶は呆気にとられ、茫然とその様子を眺めていた。


――どうして、誰も気付かないの?


「わかった? 私たちが見えている人は、誰一人としていないのよ」


キズナの言葉に、亜耶は手が震えるのを感じた。恐らく亜耶の心がそうさせているのだろう。魂だけの亜耶が震えることなど、もう二度とないのだから。