「ここに、あなたの肉体も眠っている」
「私の……?」
健は、自分の遺体の行方を知らなかったらしい。驚きの目で辺りを見渡していた。
二人は墓地の中に入り、たくさんの墓を通り過ぎていく。
もうこの近くにソウマの姿はなかった。恐らく、また伝言を受けて老夫婦の間を行き来しているのだろう。
「あそこよ」
キズナが指差したその先には、真新しい墓が立っていた。その墓の側面に、はっきりと『稲葉健』の名前が記されている。
健は自分の墓を見下ろすと、驚きのあまり目を見開いた。
墓の前に様々な色をした花が一輪ずつ積み重ねられていたのだ。
しかも、花屋で売っているような綺麗に手入れされたものではない。道端や野原に咲いているような種類の花ばかりだ。
その数は五十をゆうに越えているだろう。
上の方の花は凛と咲き誇っていたが、下の方にいくにつれて萎れ、枯れたものになっていた。
「これは……?」
健が驚きを隠せずにキズナを見た。しかし、キズナは何も言わず、ただ墓地の入り口を見つめている。
しばらく経たないうちにパタパタという足音が聞こえ、一つの小さな影が見えた。
その影の正体は……なんと、あの日健が助けた少年だった。健の墓の前に山積みになっているものと同じ種類の花を一輪握りながら走ってくる。
少年はいつも通り、墓の前に積まれている花の上に新しい花を置き、手を合わせた。
「おじさん、こんにちは! 今日も僕、元気に過ごしてるよ」
……太陽のような笑顔だった。
健はその眩しさに目を細め、涙を浮かべる。
しかし、少年は健の存在に気付かず、独り言の様に話を続けていた。
「今日はねぇ、給食がハンバーグだったんだ! 一個余ったから、みんなでじゃんけんしたの。僕もやったんだけどね……最後の最後で慎吾くんに負けちゃった」
少年は少し残念そうに笑いながら、健の墓に向かって今日の出来事を報告した。おそらく、毎日この行動を繰り返しているのだろう。
少年は、この日課を無事終えると、満足そうにもと来た道を走り去っていった。