墓地に入ると、数え切れないほどの墓石が並んでいた。


少し高い丘の上に作られていたため、墓地からは街の様子が見下ろせた。隣の野原から、様々な花の香りが風に乗って流れてくる。


それに裏には竹やぶがあり、大きさも形もバラバラな竹たちが、風の流れに任せてサワサワと葉の擦れ合う音を響かせていた。


……が、その音を掻き消してソウマが叫ぶ。


「じぃちゃん!」


ソウマの視線の先には一つの墓石があり、その墓石の上に一人の老人が座っていた。


頭は禿げ上がり、白髪が数本だけ虚しく生えている。いかにも頑固そうな顔をしたその老人は、真っ白な眉をひそめてソウマを見つめていた。


「あいつは、まだ会いに来ようとせんのか!?」


老人は、ソウマに向かって怒ったように呟いた。


「じぃちゃん、素直に謝れって。どう考えても結婚記念日忘れてたじぃちゃんが悪いじゃん。頼むから、仲直りして二人で天に還ってくれよ」


ソウマが頑固な老人を説得している傍ら、キズナはため息混じりに周りを見渡している。


すると、ある墓が目に入った。その墓だけは他の墓と少し違ったため、目をひいたのだ。


キズナは顔色を変えてその墓を確認すると、ローブを翻して空へ飛んでいった。ツキが慌ててその後に続く。


「ちょ……キズナー!」


ソウマが悲しそうな声で叫んだときには、もうキズナの影すらもなかった。





キズナは再び火事現場の前に着地し、焼け焦げた室内に入っていく。健は真っ黒の床に座り込み、焼けただれた窓から夕日を眺めていた。


「健……一緒に来てほしいところがあるの」


健は、突然後ろから声をかけられて驚いたように振り返ったが、すぐにキズナに冷たい目を向け、吐き捨てるように言葉を放つ。


「言っただろう。私はここから離れない」


「あなたに見せたいものがあるのよ。それを見ても、ここに留まりたいというなら……私は止めない。ついてきて」


キズナの真剣な顔に、健は少し眉をひそめたが、ゆっくりと立ち上がった。


二人は墓地へ向かう坂道を無言で歩き続けた。キズナがようやく足を止めたとき、後ろで健が呟いた。


「墓地……?」