少女は、あまりにも現実とかけ離れていたのだ。


隣には、三つの尻尾と小さな羽根を持つ黒猫が座っていたし、何より……彼女は、大きく鋭い刃を持つ大鎌を携えていた。


目を見開く弘樹にかまわず、少女は話を続ける。


「天に向かえない場合、魂は強く望んだ場所に移動する。……例えば、思い出の場所や大切な人の元へ、ね」


「きみは……?」


弘樹は呆気にとられて少女に尋ねた。


少女はにこっと笑うと、ジャングルジムから飛び降り、弘樹の目の前に優雅に着地した。


「はじめまして、松永弘樹<マツナガ ヒロキ>さん。私は死神、キズナ。あなたの魂を天へ導くためにきたの」


「し……にがみ?」


――そうか……俺は死んだんだ。


やけに物分かりがいいことに、自分でも驚いた。しかし、それで全てが繋がる。


自分は、さっきまで交差点で倒れていたはずだ。なのに……気がつけば、この公園に立っていた。


そして、あんなに感じていた全身の痛みが嘘のように無くなり、今までにない程に意識もはっきりしている。


――あの時点で、俺は死んだ。


自分の死には納得したものの、何か心に引っ掛かるものがある。


俯いていた弘樹が、突然何かを思い出したのように顔を上げた。


「綾華<アヤカ>!綾華のところへ行かないと!」


「綾華?」


弘樹の言葉に疑問を抱いたキズナが、不思議そうに眉を上げた。そんなキズナに、弘樹が説明を付け加える。


「綾華は俺の妻なんだ」


「……そう。その人が、あなたをここに留まらせる原因なのね」


キズナが呟いた時には、弘樹はもう公園の出口に向かって走り出していた。


「待ちなさい。その人の所へ行っても、あなたは何も出来ない。あなたは……肉体のない魂だけの存在なのよ」


その言葉に、弘樹がぴたりと足を止めた。


「でも……」


「まず、私に全てを話して。私が助けてあげる」


弘樹はしばらく迷うように目を伏せていたが、やがて走り出したい気持ちを押し殺すように拳を握り、話し出した。


「俺が綾華を置いていけないのには理由があるんだ。綾華は……俺の子供を妊娠してるんだよ」