翌日、キズナとツキは火事現場の前の小道を、大通りとは反対方向に歩いていた。


小道は少しずつ上り坂になっており、その先には墓地らしきものが小さく見えた。その隣には、以前癒芽と出会った野原も見える。


近くに学校もあるらしい。お昼を知らせるチャイムの音が聞こえてきた。


「キズナー、どーすんのー?」


ツキが、自分の前をひらひら飛ぶ蝶を追いかけながら尋ねた。蝶はツキに捕まるまいと必死で逃げている。


「彼がここに留まるのは、助けた少年が原因。その少年を捜すしかないわね」


キズナが坂を登りながら答えた。少し急な坂だったが、疲れている様子は全くない。


「どーやって? 健は『八歳ぐらいってことしかわかんない』って言ってたよ?」


ツキの動きは止まったが、目は未だに蝶に釘付けのままだ。


「せめて、名前だけでもわかったら……」


キズナが悔しそうに呟いた時、ツキの歓声が聞こえた。とうとう蝶を捕まえたらしい。


蝶を二本の足でもてあそぶツキを、キズナは呆れ顔で見ながらため息をついた。


そして、キズナが何気なく近くにあった電信柱に触れた。その瞬間……


キズナの頭の中に、ある映像が入り込んできた。


走っている二つの人影が見える。たった今、キズナとツキが歩いてきたあの上り坂だ。そのうちの一人の顔をみると……


他でもない、キズナ本人だ。首にマフラーを巻き、冷たい風を受けた顔を真っ赤にしながら走っていた。


そして、その隣に誰かいる。そうだ……キズナの隣には、いつもこの人がいた。



「……ナ……キズナってば!!」


ツキが叫んだと同時に、キズナの意識は現実に引き戻された。


「どしたの?」


ツキは心配そうに尻尾を振った。


ツキの関心がキズナに移ったと同時に、蝶はようやく自由の身となり、急いで空の彼方へ逃げていった。


「何でもない……」


キズナの顔は、これ以上ないほどにこわばっていた。もしキズナに肉体があれば、滝のような汗が流れていただろう。



――記憶が……あれは生前の記憶に違いない。ほんの断片だけど……。