「……熱い……誰か……助けて……」
燃え上がる炎に包まれた男が、焼けただれた手を数メートル先の扉に向かって伸ばし、呻いていた。
その扉が開き、助けが来るのを求めるように。
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燦燦(さんさん)と降り注ぐ真夏の太陽が地に傾く頃、大通りは道行く人で溢れていた。
その様子を何気なく観察している少女がいる。彼女自身は、そこらの女子高校生と変わらない。しかし、彼女には不思議な点がいくつもあった。
一つ、普通の人間に姿が見えていないこと。
もっとも、彼女は信号機の上という、普通の人間に不似合いな場所に座っているのだから、見えたら大騒ぎだが。
二つ、日の照りつける真夏だというのに、暑苦しい黒いローブを身に纏っていること。
彼女の長い黒髪が、さらに漆黒のイメージを深くさせていた。
三つ、自分の身長よりも大きい大鎌を握っていること。
その鎌は人を斬るには充分すぎるほど鋭利に光っている。しかし、これは生きている人間を斬るものではない。
彼女は死神なのだ。迷える魂を見つけ、天へと導く……それが死神の仕事である。
彼女が通りゆく人々に飽き、隣に建つビルの屋上に飛び移った時、なにか黒い生物が彼女めがけて飛んできた。
「キズナ!」
「ツキ、遅いわよ」
ツキと呼ばれた生物も、外見は普通の黒猫と変わらない。しかし黒い羽根が生えており、尻尾が三つに分かれていた。この尻尾にはそれぞれ能力があり、霊を感知できたりもするのだ。
「しょうがないでしょ! ツキの尻尾だって霊を感知出来る範囲は決まっているんだもん! 結構大変なんだよ!?」
キズナの言葉に、ツキが毛を逆立てて怒った。
「はいはい。それで見つけた?」
「あっちに一人見つけた」
キズナの冷たい態度に少し拗ね気味のツキは、今にも山の間に隠れようとしている太陽とは反対の方向を指して答えた。
「よし。行こう」
大通りは、様々な目的を持って移動する人間でごった返していたが、少し外れた小道に入ると怖いくらい静かなものだった。
キズナはツキに続き、その静かな道を進んでいく。