恐る恐るその花を見つめると……
「蓮華草?」
母親は何かに気付いたようにはっとした。天井から落ちてきた蓮華草の花束。
蓮華草は確か……
「癒芽の、一番好きだった花」
そう呟いた直後、母親の顔が綻んだ。
「……そう。癒芽、あなたが悠斗を助けてくれたの?」
母親は感謝の眼差しで蓮華草を見つめた。
癒芽がここにいるという確証はどこにもない。割れた花瓶が癒芽の仕業だということも。
……しかし、なぜか癒芽のおかげだと確信していた。
「ほら……悠斗、お姉ちゃんがお花届けてくれたよ」
母親は悠斗に花束を渡しながら言った。悠斗は意味をわかっていないようだが、嬉しそうに花を掴んでいる。
「お姉ちゃん、ずっと言ってたの。悠斗の誕生日には、沢山のお花あげるんだって。パパとママが買ってきてあげるって言ったのに……あの子、頑固だったから。どうしても自分で摘みたかったんだろうね」
母親は目頭が熱くなるのを感じて息を詰まらせたが、涙を飲み込むように大きく息を吸うと、全く理解していない悠斗に話し続けた。
まるで自分に言い聞かせるように。
「でも……お姉ちゃんは今、幸せみたい。蓮華草の花言葉、ちゃんと覚えてるわ」
「『私の幸福』」
母親と悠斗の姿を静かに見ていた癒芽が呟いた。
癒芽は最後の願いが叶ったことに嬉し涙を流し、微笑んでいる。
隣にはツキとキズナがいた。母親が火を消し終えた時、ちょうどこの現場に戻ってきたのだ。
「死神さん、ありがとう。癒芽、これで安心してお空いける!」
癒芽はようやく二人から目を離し、満面の笑みでキズナを見上げた。
そんな癒芽にキズナも笑顔を返す。
「そう、よかった。天まではツキが案内してくれるわ」
「ツキちゃんが? 死神さんは一緒に来てくれないの?」
癒芽が疑問と寂しさが入り交じったような顔で尋ねた。
キズナはしばらく辛そうな目をして黙っていたが、取り繕ったような笑顔を癒芽に向けた。
「ごめんね。私は行けない。死神が天に足を踏み入れる事は許されないから……」