キズナと癒芽が野原に戻ったとき、癒芽が尋ねた。


「死神さん、どうするの? 癒芽、お花に触れないよ?」


「私が摘んで花束を作るわ。それでいい?」


癒芽は、同じ霊体である死神が一体どうやって花束を作るのだろうと不思議そうな顔をしたが、ゆっくり頷いた。


「じゃあ……ツキ、お願い」


キズナがツキの方を向いて言った。ツキは頷き、キズナの中へ入っていく。


ツキが入った途端、薄く透き通っていたキズナの体が実体を手に入れた。


「うわぁ! 死神さん、人間になった!!」


癒芽が興奮しながら跳びはねた。


「人間になったわけじゃないわ。けど、これで花にも触れる。ただし、あんまり長い間はもたないからね」


キズナが忠告ながら笑いかけた。


「ありがとう! もう摘みたいお花は決まってるから大丈夫だよ」


癒芽が、野原のいたるところに生えている蓮華草を指さし、嬉しそうに言った。


「……蓮華草だけ? どうせなら、色んな花を入れた方がいいんじゃない?」


キズナが提案したが、癒芽は首を横に振った。


「蓮華草だから意味があるの。蓮華草なら、癒芽の気持ち……きっとママに伝えてくれるから」



傾き、赤く変化していく太陽の中、広い野原をキズナと癒芽はたくさんの蓮華草を摘んで回っていた。


ようやく両手いっぱいほどの大きい花束を完成させ、キズナが再び死神に戻った頃、野原の入口にしゃがみ込んでいる一人の少年を見かけた。小学生のようだ。


少年は慎重に花を選ぶと、一輪だけ丁寧にちぎり、走り去っていってしまった。


癒芽はその少年を静かに見ていた。自分で花を摘めることが羨ましくて仕方ないのだろう。


もしも生きていたら……両手一杯の花を、癒芽の手で渡すことができるのに。


癒芽は悔しさを押し込めて静かに目を拭うと、キズナに笑顔を見せながら明るく言った。


「早く帰らなきゃ真っ暗になっちゃうね。お家に戻ろ!」


「そうね」


キズナが悲しげに笑顔を返すと、二人は街に向かって歩いていった。